便秘の予防・解消のためには、どのような方法が有効なのでしょうか?
便秘を定義するのは難しいとされていますが、慢性的な便秘は腸内環境を悪化させる根本原因になってしまいますので、早めに対応していくことが重要です。
しかし、便秘薬を服用し続けることは、腸の自発的な運動を弱めることにつながっていきますので、便秘薬の乱用は、対症療法にはなっても、根本治療にはなりません。また便秘薬に依存しすぎると、大腸の健康を損ねてしまう可能性も生じてきます。
そのため、便秘を解消するには、大腸が健康になるように長期的に腸内細菌のバランスを整え、腸内フローラを改善することだと考えられます。
では、具体的にどのような方法をとることで便秘を予防・解消していけばよいのでしょうか?
まず、便秘の予防と解消に効果的なのは、食物繊維を普段の食生活でたくさん摂るようにすることです。
食物繊維のうち、水に溶けにくい不溶性食物繊維には、腸を刺激して腸の蠕動(ぜんどう)運動を活発にする働きがあります。
また、水に溶けやすい水溶性の食物繊維は、腸管内でゲル状になるため、便の移動をスムーズにしてくれます。
水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の違い
水溶性食物繊維
作用 | 腸管内でゲル状になり、便の移動をスムーズにする |
機能 | 便を正常にする・過敏性腸症候群の症状を改善にする・有用菌の発酵の材料になり、短鎖脂肪酸を生成する |
主な食品 | 根菜、野菜、豆類、海藻、きのこ、熟した果実 |
作用 | 水分を吸収して膨らみ、便量が増加することで便通が改善する |
機能 | 便秘を解消する・有害物質を希釈し、がんの予防や血圧を下げる |
主な食品 | 穀類、野菜、豆類、甲殻類の殻、ココア、熟していない果実 |
さらに医学博士の内藤裕二氏は、食物繊維の摂取と短鎖脂肪酸の生成が、慢性的な便秘を解消に向かわせると述べています。
便の不調がある場合には、いろいろ理由があります。便の八〇%は水分で、残りの二〇%ははがれた腸粘膜細胞、食べ物のカス、腸内フローラです。
「バナナ便」といわれるような健康な便のためにはいろいろな対策が必要です。重要なポイントは、大腸で「発酵」といわれる反応をうまく導き出すことであり、この発酵反応には、材料としての食物繊維と主役の有用菌の存在が必須なのです。
食物繊維は、まず水と結合し、便の量を増加させます。便の量が増加することは、良い便を作るための第一歩であり、便秘の解消につながります。さらに、便の量が増えることは有害物質の希釈作用もあります。有害物質の排出を促進することで、がんの予防効果、さらにナトリウムの排せつが促進されることで、がんの予防効果、さらにナトリウムの排せつが促進されることによって、血圧を下げる作用も期待できます。
もっとも重要なことは、食物繊維の発酵により生じた短鎖脂肪酸が大腸粘膜上皮の栄養源となることと、短鎖脂肪酸が生成されて腸内を酸性に保ち、有害菌の増殖を抑制することにあります。食物繊維の摂取は比較的短期間に腸内細菌を変化させるとされていて、血中の短鎖脂肪酸濃度も変化します。(内藤裕二『消化管は泣いています』p164)
内藤裕二氏がこのように述べているように、便秘を解消に向かわせるひとつのカギとなるのは、食物繊維と短鎖脂肪酸であると考えられます。
そのため便秘の予防・解消のために最も大切なことは、食物繊維を日頃からたくさん摂ることで、腸内フローラを改善していくことです。
ちなみに食物繊維で腸内フローラを改善するには、不溶性の食物繊維と水溶性の食物繊維をバランスよく摂るようにすることが必要だと言われています。
また、医学博士の松生恒夫氏は、オリーブオイルを「消化管作動性物質」の代表とし、オリーブオイルに含まれるオレイン酸が、便秘の解消には効果的だと述べています。
オリーブオイルは、紀元前から排便促進効果が知られていました。イタリアでは現在でも、子どもの便秘予防に、スプーン一杯のオリーブオイルを摂らせることがあるそうです。オリーブオイルが腸管を動かす秘密は、オリーブオイルに豊富に含有されているオレイン酸にあります。オレイン酸は、脂質のおもな成分である脂肪酸の一種です、オリーブオイル一〇〇ミリリットル中に含有される脂肪酸は九四ミリグラムですが、このうちオレイン酸は七五パーセント、リノール酸は一〇・四パーセントで、他の油と比較すると非常にオレイン酸が多いのです。 ( 松生恒夫 『腸に悪い14の習慣』 p118)
まずオリーブオイルの主成分はオレイン酸です。このオレイン酸は、一時的に多く摂った場合は小腸で吸収されにくい成分なので、腸壁をゆっくりと刺 激することができます。また大腸を刺激し、さらに老廃物と混じって腸管内の便をなめらかにして、排便をスムーズに促す役割があります。
またオリーブオイルを他のオイルと比べた場合ですが、他のオイルは主に小腸で吸収されることが多いので、大腸まで到達するオリーブオイルは、まさに腸内環境を整えるのにうってつけなのです。( 松生恒夫 『腸寿 長寿な腸になる77の習慣』 p138)
このようにオリーブオイルも便秘の予防と解消に効果的だとされていますが、オリーブオイルには品質に差があるため、食生活に採り入れる場合は、なるべく品質が良いエクストラバージン・オリーブオイルを選ぶようにすることをおすすめします。
また、松生恒夫氏はオリゴ糖や植物性乳酸菌ラブレにも、便秘を解消する効果があると述べています。
また便秘はリラックス不足や運動不足が原因でも起こると言われているため、食事によって腸内フローラを改善する以外にも、自律神経のうちの副交感神経を働かせてリラックスしたり、あまり激しくない運動をこまめに行なったりするような生活習慣をもつことが、便秘の予防と解消のためには大切になってきます。
このことに関して理化学研究所の辨野義己氏は、以下のように述べています。
消化管は、副交感神経が活発になる休養モードに活発に動きます。ですから、しっかりと消化管を動かすためには、ゆったりとしたリラックスタイムを持つことが重要です。睡眠は、ある程度まとまった時間リラックスしていられる大切な時間です。夜にリラックスしてぐっする眠っていると、その間に腸は活発に動いて便を運んでくれます。すると、朝起きて朝食を食べると、夜の間に運ばれてきたウンチがするすると出ていきます。
(辨野義己『腸を整えれば病気にならない』p141~142)
運動不足は便秘の原因になります。現在の若い女性に便秘が多いのは、運動不足のせいもあるのかもしれません。よく運動する人は大腸がんにかかりにくいということがわかっていますが、運動をよくする人は便秘になりにくいからということもあるでしょう。
腸の周りの筋肉を動かすことで、腸が刺激されて蠕動運動が起こりやすくなります。また、腸の周りの筋力をつければ、腹圧を高めて押し出しやすくなります。
腸の前には腹筋、後ろ側には腸腰筋があります。
(辨野義己『腸を整えれば病気にならない』p143)
ちなみに辨野氏によれば、腸腰筋を鍛えるには「脚をやや持ち上げる動作が必要」で、「階段を上ったり、エクササイズウォーキングのようにできるだけ速歩で大股で歩いたり」すると良いそうです。また「ゆるやかな坂道を登るだけでも効果」はあるといいます。
参考文献
松生恒夫 『腸に悪い14の習慣 「これ」をやめれば腸が若返る』 PHP研究所
辨野義己 『腸を整えれば病気にならない 腸内フローラで健康寿命が延びる』 廣済堂出版
内藤裕二 『消化管は泣いています』 腸内フローラが体を変える、脳を活かす』 ダイヤモンド社