ここでは西原克成氏の『生命記憶を探る旅 三木成夫を読み解く』(河出書房新社 2016年)を、腸をより深く知るための書籍として紹介しています。
日本における偉大な解剖学者である三木成夫氏は、腸を中心とした内臓に「こころ」を感じとっており、また、人体を「植物性器官」と「動物性器官」に分類し、腸を中心とした内臓系に植物の性質を、脳を中心とした体壁系に動物の性質を読み取っています。
さらに三木成夫氏は人体に宿る「生命記憶」についても言及しています。この生命記憶はヒトのからだに刻まれている5億年の生命進化の記憶や、母なる海との関係が深い生命のリズムというものにも関わってきます。
そのため、腸と進化の問題や、腸と心の問題を考える上で、三木成夫氏が展開している学問の世界は避けて通れないと思われますが、『生命記憶を探る旅 三木成夫を読み解く』は、医学博士であり、『内臓が生み出す心』の著者でもある西原克成氏が、その三木成夫氏の学問の成果を踏まえながら、生命の進化とエネルギーの関係やミトコンドリアについて言及している一冊なのです。
「三木形態学」を深く考えると、「進化」がどうして起こるのかという、しかけとしくみの謎が、おのずから「重力」のもとに解けてきます。
これまで、漠然と「環境因子」といわれたものをきちんと分析すれば、これは大別して「環境物質」と「環境エネルギー」の二種類に分けられます。
これらのうち、「エネルギー」の概念が、従来の生命科学や生理学、病理学、免疫学や進化学からは、完璧に欠落していました。そのために、現在の免疫学が狂い、糖尿病やがん、精神神経疾患など、「難治性の疾患」(難病)の治療法も破綻しているのです。
(西原克成『生命記憶を探る旅 三木成夫を読み解く』p22)
三木成夫先生の形態学には、「生体力学」と「重力エネルギー」の概念が、無言のうちに、ごく当たり前のこととして入っています。これらを生理学や病理学、免疫学に導入すれば、医学も革命的に改められるはずです。
「進化」が物質とエネルギーの両面から起こっていることがわかれば、エネルギー摂取のしかたの誤りで病気が起きることもわかるでしょう。
エネルギーを誤って摂取し、それが累代に及べば、弱った種族が誕生します。これがさらに進めば、人類は確実に「絶滅進化」への道に入るでしょう。
(西原克成『生命記憶を探る旅 三木成夫を読み解く』p22~23)
生命の進化とエネルギーの関係については、たとえば、
「われわれのからだのすべては、「進化」という現象の摂理のなかにあるのです。だからこそ、「難病」もまた、誤った食生活とエネルギーの摂取法と、からだの使い方の誤りで起こるのですから「不具合な進化」ということができるのです。(p42)
「エネルギーの作用で進化が起こるのですから、エネルギーのとり方の不適当でも容易に難病も発症するのは当然です。つまり、食物と同様に、エネルギーもまた摂取のしかたしだいで、からだには良いほうにも悪いほうにもはたらくのです。」(p58)
といったくだりを読むと、進化とエネルギーの関係から、多くの難病を予防するためには、どうしたら良いのか深く考えさせられるものがあります。
また、後半部においては、エネルギーという存在についての、西原氏独自の見解が述べられています。
「宇宙には「時間」と「空間」と、「物質」(matter)と「物質が内臓する光と熱、重力」という「エネルギー」が存在します」(p172)
「とくに重要なことは、質量のある物質のもの3つの側面が、「光」と「重力」と「熱」という、3種類の「エネルギー」であるということ」(p183)
この『生命記憶を探る旅 三木成夫を読み解く』は内容が難解ですし、著者の西原克成氏が述べようとしていることを正確に理解するためには、何度も読み込む必要があるように感じます。
ちなみに本書は三木成夫氏の思想そのものを分かりやすく紹介することに重点を置いた本ではありませんので、三木成夫氏の学問や思想に関心がある方は、三木成夫氏の『内臓とこころ』や、布施英利氏の『人体5億年の記憶』などを手に取ってみることをオススメします。
しかし、西原克成氏の『生命記憶を探る旅 三木成夫を読み解く』は、三木成夫氏の思想をひも解きながら、「進化」や「エネルギー」、内臓と心、ミトコンドリアという観点によって、これからの真の健康を考え、多くの難病を予防するためには、非常に価値のある一冊であることは確かです。