ここでは『闘う微生物 抗生物質と農薬の濫用から人体を守る』(エミリー・モノッソン 著 小山重郎 訳 築地書館)を、腸をより深く知るための書籍として紹介しています。
『闘う微生物』(エミリー・モノッソン 著 小山重郎 訳)は、副題の通り、抗生物質や農薬の濫用から、これからどのような方法によって人体を守っていくか、ということの道筋を示した一冊だといえます。
これまでの歴史において、抗生物質は、私たちを感染症から守るという役割を果たしてきましたが、その一方で、抗生物質の乱用は腸内細菌叢(腸内フローラ)をはじめとした微生物相に無差別に打撃を与えたり、耐性菌を出現させたりするという問題も引き起こしてきました。
また、農薬の使用は食料の増産に貢献しましたが、農作物の病害虫に対して使用された農薬によって、抵抗性もつ新たな病害虫や雑草を生み出すという事態を引き起こしてきました。
したがって、抗生物質に関しては、最低限の使用に止め、農薬の問題に対しては、農薬や化学肥料をなるべく使わない有機栽培が問題の解決策として推奨されますが、エミリー・モノッソン氏による本書『闘う微生物 抗生物質と農薬の濫用から人体を守る』においては、そのような解決策は導き出されてはいません。
本書の特色は、訳者の小山重郎氏が、「生態学にもとづき、最近のゲノム学、コンピューター学の進歩を取り入れるならば、自然と敵対するのではなく、自然を味方につけた解決方法が生み出されることについて、彼女は楽天的である」と述べていますが、科学研究の進歩や最新の成果を信頼しつつ、抗生物質や農薬の問題に関して合理的な解決策を示していることだといえます。
このことに関して、特に印象的なのは、
についての言及です。
特に遺伝子組み換え作物(GMO)に関しては、「外来の遺伝子を加えるよりも、欠点のある遺伝子を修復することによって作物を生産すること」、「自然に存在するものと同じ病害虫抵抗性の作物を作ること」は、「GMO作物についての、最も基本的な心配を回避する代替品」がある理由だとしています。
農業の未来を考える際、この遺伝子組み換え作物(GMO)に関しては、否定的な意見が殺到する傾向があるのかもしれませんが、議論の対象としては、独立した研究者であるエミリー・モノッソン氏が提示している視点は、貴重なものだと捉えることができます。
また、『闘う微生物』においては、「前世紀には、私たちは自然を支配しようと試みたことで痛い目にあった。今度の世紀は新しい知恵を授ける」として、以下の項目について、著者なりの考えが述べられています。
具体的にどのようなことが述べられているかについては、実際に本書を手に取って確認していただきたいと思いますが、これらのことは、これまでの歴史を踏まえつつ、これからの21世紀において、私たちと微生物がどのように正しく共生していくかを考えるための指針になるように思います。
この本はすべてを有機栽培にしようとするものではない。また、抗生物質による処置を否定するものでもない。そのかわりに、一歩一歩進み、私たちの化学物質漬けの過去から離れて、自然ともっと調和する未来へと進もうとするものである。
これらの自然の防御――微生物群を維持することから、ウイルスを役立てることへ、また昆虫の感覚を混乱させることまで――について私は楽天的であり、その考えを読者と分かち合いたい。
(エミリー・モノッソン『闘う微生物 抗生物質と農薬の濫用から人体を守る』 小山重郎 訳 p6~7)
もし、私たちが抗生物質を保持し、私たちの微生物群と共に働き、世界中で病気の大発生を本気で阻止するならば、細菌、ウイルス、原生動物、そして菌類の速く、正確な識別を行うことは必須である。私たちは有益な微生物を守り、維持する一方、クロ・ディフ、MRSA、淋菌、そして結核菌のような日和見的病菌をゼロにする必要がある。これらの二十一世紀の技術は診断を新しい時代に導くことが出来、私たちの自然の味方の協力を仰いで、敵とわかる場所で、それに対して防御することが出来る。
(エミリー・モノッソン『闘う微生物 抗生物質と農薬の濫用から人体を守る』 小山重郎 訳 p182)
なお、本書『闘う微生物』を出版している築地書館は、ほかに『土と内臓』という興味深い一冊も出版しています。