キセイチュウ博士とも呼ばれているの藤田紘一郎氏による『脳はバカ、腸はかしこい』は、ヒトの「心」というものを考えるうえで、「脳」よりもむしろ「腸」のほうが重要なのではないか、という視点を与えてくれる一冊です。
もちろん、心という不可解な領域を考えていくうえで「脳」も大切ですが、偏った「脳ブーム」にどこか息苦しさを感じる方は、この藤田紘一郎氏の『脳はバカ、腸はかしこい』は一読に値します。
私は最近、脳内幸せ物質であるセロトニンやドーパミンが腸で合成され、その前駆体が腸内細菌によって脳内に運ばれていることを報告しました。腸内細菌がバランスよく多量に存在しないと、私たちは幸せな気分になれません。「幸せ」を作っているのは腸だったのです。
脳こそがすべてをつかさどっている司令塔で、その他の臓器は脳の指令のもと下働きをするだけだと思われていたのは大間違いだったのです。常に暴走しようとするバカな脳と違って、腸はいつも身体全体のことを考えてくれます。
(藤田紘一郎『脳はバカ、腸はかしこい』p3)
また、藤田氏の『脳はバカ、腸はかしこい』においては、特に幸せホルモンである「セロトニン」と腸の関係について詳しく書かれているため、腸内フローラの改善によってうつの症状を緩和する方法を考えていくうえで非常に参考になります。
最近私は、腸内環境の悪化がうつ病や不安神経症を促している可能性を示唆する研究結果を発表しました。脳の健康は腸の健康であると同時に、腸の健康は脳の健康であると考えられるようになったのです。幸せ物質であるセロトニンが90%腸に存在していることは何度も述べました。腸内に危険な物質が入ってくると、腸内のセロトニンが働いて脳に危険な物質を胃から吐き出せと命令を出させると同時に、脳を介せず下痢という手段で体内から危険な物質を排泄しようとします。
このように腸から指令がなくても、独自のネットワークによって命令を発信する機能を持っているのは、臓器の中でも腸だけです。腸のセロトニンの働きが心の健康にも重要な影響を与えているということです。
(藤田紘一郎『脳はバカ、腸はかしこい』p82)
また藤田紘一郎氏には、同じ三五館からでている『遺伝子も腸の言いなり』という著作もあります。
この『遺伝子も腸の言いなり』は、「遺伝子」と「腸」と「脳」の関係について述べられており、特に「エピジェネティクス」について言及されているくだりは注目です。
さらに付録として提示されている、常識にとらわれない逆転の発想を行うための「腸思考法」も、普段から頭でっかちにならないようにするために参考になります。また、脳に支配されない生き方を求めている方にも『遺伝子も腸の言いなり』はオススメです。
私は、遺伝子がすべてを握っていると多くの方が信じていることを残念に思います。そうした思考にとどまるのは、皆さん一人ひとりが持っているさまざまな可能性を閉ざすことになると思うからです。
進化の過程でもわれわれ人類と最もつき合いの長い腸の声に、もっと耳を傾けるべきなのです。
(藤田紘一郎『遺伝子も腸の言いなり』 p4)
そのほか、藤田紘一郎氏には『腸内細菌が家出する日』という著作もあります。
第1章 腸が脳よりかしこい(日本の高齢化や少子化の謎を解く/脳で考える日本人、身体全体で考えるフランス人 ほか)/第2章 幸せな脳は腸が作る(腸内細菌が「幸せ物質」を脳に運ぶ/腸内細菌が脳の発達を促す ほか)/第3章 腸が可愛がれば、脳はよくなる(私の体験的「子育て」論/幼児期の英才教育は子どもをダメにする ほか)/第4章 食べ物は脳をだます、腸はだまされない(大食いによって癒される脳、壊される腸/糖質を食べ過ぎると、食欲をコントロールする脳細胞が傷つく ほか)