東京大学名誉教授の光岡知足氏による『腸を鍛える 腸内細菌と腸内フローラ』は、腸内細菌や腸内フローラのことを深く、そして明快に知ることが出来る一冊です。そのため、光岡知足氏の『腸を鍛える』は、初めて腸内フローラと腸内細菌のことについて勉強するための一冊として最適です。
また当サイト「腸内フローラの改善生活」を作成するうえで、この光岡知足氏の『腸を鍛える 腸内細菌と腸内フローラ』からは様々な示唆や腸内フローラに関する知識を与えられました。
ちなみに著者の光岡知足氏は腸内細菌学のパイオニアであり、一般的に馴染みがある「善玉菌」や「悪玉菌」、さらに辨野義己氏らと共に「腸内フローラ」という言葉を命名したことも知られています。
善玉菌と悪玉菌――今ではすっかりおなじみの言葉ですが、この言葉を使ったのは、私が最初だろうと思います。今から40年以上前、一九七〇年頃のことです。
もちろん、最初から多くの人に受け容れられていたわけではありません。腸内に生息する無数の菌を、善悪の二元論でとらえたのですから、「ずいぶん乱暴なことを言うものだ」と眉をひそめた人もいました。
確かに、乱暴な話だというのもわかります。それでも、あえて善玉菌・悪玉菌という分け方が必要だと考えたのは、一九五〇年代当時における定説を覆すような事実――赤ちゃんの腸にしかいないと思われていたビフィズス菌が、大人の腸にも存在すること――を知ったからです。
(光岡知足『腸を鍛える 腸内細菌と腸内フローラ』p16)
また光岡知足氏の『腸を鍛える 腸内細菌と腸内フローラ』で印象的なのは、乳酸菌の免疫系に対する働きについて詳しく述べられていることです。そのため、特に乳酸菌が花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状に対してどのような改善効果を発揮するのか知りたい方は、この『腸を鍛える』の一読をおすすめします。
免疫の働きの利用には、まずワクチンや抗生物質の開発に目が向けられてきましたが、乳酸菌が免疫を活性化させてくれるのであれば、毎日の食事もこれまで以上に重要な意味を持ってきます。
ワクチンや抗生物質をすべて否定するものではありませんが、食事からしっかり乳酸菌を取り込む習慣をつけていけば、それだけで免疫活性につながり、病気の予防にも役立ってくるからです。
しかも、TLRが反応するのは菌体成分ですから、「生きた菌」にこだわる必要もありません。ヒトの腸内の優勢菌だからといって、ビフィズス菌を摂ることを重視する必要もないでしょう。
そう、実際には、乳酸菌の菌体成分に自然免疫が反応しているのです。だとすれば、大事になってくるのは菌の数です。なるべくたくさんの乳酸菌を送り込むことが、腸管免疫を刺激し、健康状態を高める近道です。
ヨーグルトを摂ることでもそうした効果は得られますが、その場合、毎日一定の量を摂り続けることが何よりも必要になります。
あまりたくさん摂るのは大変だと言う人は、乳酸菌を含有したサプリメントでもかまいません。
(光岡知足『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』 p86~87)
それに加え、光岡知足氏はより効果的に腸内フローラの改善を行うために、「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」を越えた「バイオジェニックス」という概念を提唱しています。
さらに、『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』の終章「人体の不思議」では、科学的エビデンスのみに基づかない、人という生命と腸内フローラに対する温かいまなざしが、光岡氏の文章から伝わってきます。
それはたとえば「共生の哲学」として語られる、
どの国、どの時代であっても、悪いことをする人は必ず存在しますが、善いことをする人の割合が一定以上の割合で存在していれば、そうした悪も自然と抑え込まれ、社会の調和は保たれるでしょう。
すべてを変える必要はないのです。腸内細菌で言えば、ヒトの健康のカギを握るのはビフィズス菌ですから、ビフィズス菌が働きやすい環境を整えていくことを常に考えるようにすれば、悪玉菌の増殖は抑えられ、大多数の日和見菌が悪になびくことがなくなっていきます。
そう、わずか2割が変わるだけで腸内フローラのバランスは回復し、私たちは心身の健康を確保することができるのです。(光岡知足『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』 p179)
といった内容のことです(そのあたりのことは「腸内細菌の理想的なバランス」のページでも引用させていただきました)。
さらに光岡氏は「「体の声」に耳を澄ませ、何を食べれば自分が元気になれるかを判断することの重要性」を述べています。
科学者の立場から言えば、まずはエビデンス、(科学的根拠)を評価の指標にすることが求められますが、それはひとつの目安であり、あなたの体にどこまで合っているかはわかりません。
私自身、一消費者として食事やサプリメントを摂るなかでまず大事にしてきたのは、自分自身の体感であり、お腹(腸)の調子です。
実際に体調がどう変化したのか? 元気になれたのか? お通じは改善できたか? その基準はみなさん一人ひとりのお腹のなかにあります。それが私の言う「体の声」です。
(光岡知足『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』 p185~186)
光岡氏が腸内フローラを改善する生活を送っていくなかで大切なのは、科学的な根拠だけではなく、「体の声」を聴くことだとしているくだりには、一読者として特に共感できるのです。
第1章 腸内細菌を育てる/第2章 腸内フローラを整える/第3章 腸管免疫を高める/第4章 腸が元気になる食事/第5章 便でわかる病気の徴候/終章 人体の不思議