アレルギー症状のひとつであるアトピー性皮膚炎は腸内フローラと深い関係があります。
では、なぜアトピー性皮膚炎が多様な腸内細菌の集まりである腸内フローラと関係があるのでしょうか?
アトピー性皮膚炎の原因は様々であり特定はされていませんが、アトピー性皮膚炎の症状とは、うまく排出されずに体内に溜まった毒素(アレルゲン・細菌・環境ホルモンなどを含む)が血液の汚れを通して皮膚に現れた状態だと推察されます。
そのため、腸内フローラのバランスを整えて未消化のタンパク質などのアレルゲン・異物が簡単に体内に侵入しないようにしたり、毒素が溜まらないよう腸内環境をキレイに保ったり(デトックス)することは、アトピー性皮膚炎の予防と改善につながると考えられます。
最近、アトピー性皮膚炎にかかる人が非常に増えています。皮膚の症状であるアトピーにも腸が大きな影響を与えています。(中略)
ひどいアトピー性皮膚炎の人ほど、腸炎もひどいという結果も出ており、皮膚炎と腸炎は密接に関連しているようです。(中略)
そもそも腸管の炎症はなぜ起きるのでしょうか?
腸に棲む善玉菌は腸内での悪玉菌による異常発酵や腐敗を防ぐはたらきをしています。しかし、ジャンクフードばかり食べていたり、心理的ストレスが続いたりすると、腸内の悪玉菌が増えすぎてしまいます。すると、腸内では有毒物質が発生します。
これが腸粘膜を刺激して炎症を起こすのです。(中略)このように、腸内環境の悪化がアトピーの一因になるのです。(山口創『腸・皮膚・筋肉が心の不調を治す』p103~105)
また、腸内フローラの状態はアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状の主な原因である免疫細胞のバランスの乱れとも関わっています。
アトピー性皮膚炎をはじめとしたアレルギーに悩まされる方は、免疫システムの「2型ヘルパーT細胞(Th2)」の割合が、「1型ヘルパーT細胞(Th1)」よりも大きいとされているのです。
アレルギーの発症の仕組みに関する詳しい説明はこちらのページを参照していただきたいと思いますが、「2型ヘルパーT細胞(Th2)」が働きすぎることで、大量の「IgE抗体」が免疫細胞のB細胞によって作られてしまうのです。
そしてIgE抗体が鼻や口、皮下などの粘膜に存在しているマスト細胞にくっついてしまい、さらにくっついたIgE抗体にアレルゲンが付着すると、マスト細胞が破れてしまい、中からヒスタミンやロイコトリエンなど、かゆみやくしゃみ、炎症のもととなる成分をまき散らしてしまいます。
また、そのきっかけをつくるのはヘルパーT細胞と呼ばれるものです。
このヘルパーT細胞には、「1型ヘルパーT細胞(Th1)」と「1型ヘルパーT細胞(Th1)」が存在しています。
簡単にいえば「1型ヘルパーT細胞(Th1)」は細菌やウイルス担当、「2型ヘルパーT細胞(Th2)」はアレルゲン担当です。
そして、アトピーや花粉症などのアレルギー症状に悩まされる方は、先程も述べたように、この「2型ヘルパーT細胞(Th2)」が働きすぎてしまうのです。
ではどのようにして「2型ヘルパーT細胞(Th2)」を抑えていけば良いのかといえば、カギになるのは「制御性T細胞(Tレグ)」と呼ばれる免疫細胞の存在です。
この「制御性T細胞」はアレルギー疾患の発症の抑制やアレルギー疾患の治癒に深く関係しており、腸管免疫のブレーキ役を果たしていると言われています。
つまり、「2型ヘルパーT細胞(Th2)」と「1型ヘルパーT細胞(Th1)」のバランスを整える役割を果たすのが「制御性T細胞(Tレグ)」なのです。
実際のところ、アレルギー症状を起こしてしまう人の免疫システムは、正常の人よりもヘルパーT細胞のバランスが悪いだけではなく、制御性T細胞の数も少ないとされています。
そしてこの「制御性T細胞」は腸内細菌が作る酪酸が体内に取り込まれて免疫系に作用すると増えるということが、理化学研究所や東京大学、慶應義塾大学先端生命科学研究所の2013年の共同研究によって明らかにされています。
この研究はマウス研究ですが、食物繊維が多く含まれた食事を与えることで短鎖脂肪酸のうちの酪酸が作られ、そのことが制御性T細胞への分化誘導につながったと言います。
そのため、食物繊維を普段から多く摂るようにすることは、制御性T細胞の数を増やすことにつながり、そのことによって免疫システムのバランスが整い、アレルギー症状が改善されることは十分に考えられます。
しかも、食物アレルギーやアトピー性皮膚炎などのにアレルギー症状に悩まされる乳幼児の腸内環境を調べてみると、ビフィズス菌の数が少ないという報告もあります。
ビフィズス菌は腸内において有益菌として働いていますので、腸内のビフィズス菌を増やして、腸内フローラのバランスを整えることもアトピー性皮膚炎をはじめとしたアレルギー症状の改善には有効だと思われます。
さらに東京大学名誉教授で腸内細菌学のパイオニアである光岡知足氏は、「腸内に乳酸菌が多いと、TLRのセンサーが作動し、自然免疫が活性化されることで、アレルギーが起こりにくい状態に誘導されることは十分に考えられます」と述べています。
そのため、アトピー性皮膚炎をはじめとしたアレルギー症状を緩和していくためには、日頃から、食物繊維や乳酸菌・ビフィズス菌が多く含まれた食品を摂るようにすることで腸内フローラの改善を行っていくことが大切になってくるのです。
また、アトピー性皮膚炎に関しては、腸からアレルギー症状を緩和していくのと同時に、皮膚の健康を維持するよう努めることが大切になってきます。
アトピー性皮膚炎の症状がなかなか改善されない理由のひとつに、皮膚のバリア機能の低下が挙げられます。
肌が健康を保つためにバリア機能を高めようとしても、アレルギーの症状によってひっかいてしまうと、その皮膚のバリアは壊され、いつまで経っても肌の状態は良くならないのです。
そのため、アトピー性皮膚炎の症状を緩和していく際、かゆみに耐えられない場合は、対症療法として、医師から処方されたステロイド剤や抗ヒスタミン剤を使用し、皮膚のかゆみを一定期間抑えることも、どうしても必要になってきます。
アトピー性皮膚炎の症状を改善していく場合、腸内フローラの改善を行うと共に、いかにして皮膚をひっかかないようにするか、ということも非常に大切なのです。
ところで、人体の免疫システムのおよそ7割を担っているのは消化管である腸です。
さらに、免疫細胞の多くが細菌やウイルスの侵入を防ぐために小腸の最前線で活躍している腸は「腸管免疫」と呼ばれています。
この「腸管免疫」では「経口免疫寛容」といって外敵ではない抗原に対してはいちいち反応しない仕組みが働いており、そのことがアレルギー症状を起こさないようにするために役立っています。
そしてその腸に生息している1000種類、100兆個もの腸内細菌が腸管免疫を刺激して、免疫細胞に様々な指令を与えているのです。
近年は、腸内のミクロレベルの解析技術が発達してきたため、腸内細菌の意外な働きが分かってきており、腸内細菌の集まりである「腸内フローラ」の研究も進んでいます。
このことに関して、若き腸内フローラ研究者である福田真嗣氏は以下のように述べています。
免疫細胞には、最初は自分たちの細胞を攻撃するものと攻撃しないものがあります。しかし体内で、前者は淘汰され、後者は生き残り、体に害を与える病原菌が外部から入るのを防ぐ役割を果たしています。この新陳代謝の積み重ねによって、免疫システムができていくのです。このシステムの構築には、腸内フローラが重要な働きをしています。
(福田真嗣 『おなかの調子がよくなる本』 P106)
人間は食事をしなくては生きることができません。しかし、食べ物は当然、非自己です。だから、そのまま取り入れようとすると、体の中に入る際に免疫細胞が攻撃してしまいます。そこで、口から消化管に入ってきたものに限って、免疫システムが攻撃しないようにする特別なシステムが備わっているのです。これが「経口免疫寛容」です。このシステムの発達にも腸内フローラが関係していることがわかっています。ある種の腸内細菌がいなかったり、腸内フローラの多様性が低かったりすると、経口免疫寛容が機能せず、アレルギー反応が起きてしまうことがわかってきました。
(福田真嗣 『おなかの調子がよくなる本』 P106~107)
このように、腸内フローラの多様性はアトピー性皮膚炎をはじめとしたアレルギー症状の抑制と深い関わりがあるのです。
参考文献
上野川修一 『からだの中の外界 腸のふしぎ』 講談社
安保徹 『免疫革命』 講談社インターナショナル
光岡知足 『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』 祥伝社
福田真嗣 『おなかの調子がよくなる本 自分でできる腸内フローラ改善法』 KKベストセラーズ
藤田紘一郎 『アレルギーの9割は腸で治る! クスリに頼らない免疫力のつくり方』 大和書房
斎藤博久 『アレルギーはなぜ起こるのか ヒトを傷つける過剰な免疫反応のしくみ』 講談社
菊池新 『なぜ皮膚はかゆくなるのか』 PHP
川島眞 『皮膚に聴くからだとこころ』 PHP
安保徹 他 『アトピーを自力で治す最強事典 』 マキノ出版
永田良隆 『油を断てばアトピーはここまで治る』 三笠書房
藤澤重樹 『9割の医者が知らない 正しいアトピーの治し方』 永岡書店
山口創 『腸・皮膚・筋肉が心の不調を治す』 さくら舎