腸内フローラを改善することはアレルギー症状の緩和にも役立つと思われます。その理由は花粉症などのアレルギーの症状を改善するためには「制御性T細胞」という免疫細胞や「腸内細菌」が関わってくるからです。
普段、私たちは腸の免疫系の「経口免疫寛容」の仕組みによって、食物のアレルゲンが体内に侵入してきても、免疫細胞がいちいち異物と見なして反応しないようになっています。
しかし花粉症やアトピー性皮膚炎といったアレルギー症状に悩まされる方は、免疫システムの「2型ヘルパーT細胞(Th2)」の割合が、「1型ヘルパーT細胞(Th1)」よりも大きいため、スギ花粉や食物などのアレルゲンに反応しやすいと言われています。
この「2型ヘルパーT細胞」がきっかけで、免疫細胞のB細胞が大量の「特異的IgE抗体」と呼ばれるものを作り始めるようになり、その 「特異的IgE抗体」とマスト細胞が結合してしまうことが、アレルギーの症状を引き起こす原因になるのです(詳しくは「アレルギー症状発生の仕組み」を参照してください)。
しかし、「制御性T細胞(Tレグ)」と呼ばれる免疫細胞は、T細胞のネットワークを遮断するアナジー(無活力)状態を引き起こす働きがあり、アレルギー疾患の発症の抑制やアレルギー疾患の治癒に深く関係していると言われています。
実際、アレルギー症状を起こさない人の免疫システムには、アレルギー疾患を抱える人よりも多くの制御性T細胞が存在しているといいます。
この「制御性T細胞」は腸内細菌が作る酪酸が体内に取り込まれて免疫系に作用すると増えるということが、理化学研究所や東京大学、慶應義塾大学先端生命科学研究所の2013年の共同研究によって明らかにされています。
理化学研究所によると、マウスに食物繊維が多い食事を与えると、制御性T細胞への分化誘導が起こったそうです。
高繊維食を与えて腸内細菌の活動が高まったマウスは、代謝産物のひとつである酪酸の生産量が多くなっていたと言います。それに加え、酪酸が制御性T細胞への分化誘導に重要なFoxp3遺伝子の発現を高めていることも明らかになったとしています。
つまり、食物繊維の多い食事を摂ることで腸内細菌の活動が高まり、その結果、多くの酪酸が作られ、この酪酸が炎症の抑制作用がある制御性T細胞を増やしていると考えられるそうです。
実際、大腸炎を起こす処置をしたマウスに酪酸を与えてみると、制御性T細胞が増えて大腸炎が抑制されたと言います。
このように、マウス実験ではありますが、食物繊維などの高繊維食によって腸内細菌の活動が高まり、酪酸の生産量が多くなると、制御性T細胞の数が増えるようです。
また「制御性T細胞」は、ナイーブT細胞と呼ばれる免疫細胞が分化したものなのですが、この分化にクロストリジア属の第46株という細菌も関わっているそうです。
この細菌は大腸に生息しており、大腸における制御性T細胞への分化に重要な役割を果たしていると言われています(参考 審良静男/黒崎知博 『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』)。
つまり、アレルギーの症状の改善には、腸内細菌の存在が深く関係してくると考えられるのです。
ちなみに東京大学名誉教授の光岡知足氏は、「腸内に乳酸菌が多いと、TLRのセンサーが作動し、自然免疫が活性化されることで、アレルギーが起こりにくい状態に誘導されることは十分に考えられます」としています。また、
乳酸菌の菌体成分が腸管免疫を刺激すると、樹状細胞が活性化され、Th1の働きが優位になると考えられています。その結果、Th2の働きが抑えられるため、アレルギーが改善されやすくなるのです。
そもそも、腸内フローラがビフィズス菌優勢の状態に保たれていれば、こうした免疫の誤作動は起こりにくくなり、アレルギーは起こりません。アレルギー増加の背後には、腸内環境の悪化がひそんでいるのです。
(光岡知足 『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』)
と述べています。
実際、アレルギーに罹っている乳幼児のビフィズス菌(ビフィドバクテリウム)は、正常な子よりも少ないという報告が、スウェーデン・カロリンスカ研究所によってなされています。
そのため、花粉症をはじめとしたアレルギー症状を緩和するためには、腸内細菌の活動が高まるよう、腸内細菌の集まりである腸内フローラを改善していくことが有効だと考えられるのです
特に腸内に乳酸菌やビフィズス菌などの有用菌を増やしていくことや、食物繊維を多く摂ることで腸内細菌に短鎖脂肪酸を生成させ、「酢酸」「プロピオサン」「酪酸」を生じさせることがアレルギー症状の改善のために重要になってくると思われます。
アレルギー症状の抑制に効果的とされる主な乳酸菌
参考文献
光岡知足 『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』 祥伝社
斎藤博久 『アレルギーはなぜ起こるのか ヒトを傷つける過剰な免疫反応のしくみ』 講談社
上野川修一 『からだと免疫のしくみ』 日本実業出版社
上野川修一 『からだの中の外界 腸のふしぎ』 講談社
審良静男/黒崎知博 『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』 講談社
藤田紘一郎 『アレルギーの9割は腸で治る!』 大和書房
藤田紘一郎 『腸内細菌が家出する日』 三五館