ここでは花粉症対策と腸内フローラ改善の関係について述べています。
腸内細菌の集まりである腸内フローラや腸内環境を改善することは花粉症対策として有効である、と考えられます。
なぜなら花粉症をはじめとしたアレルギー症状には、腸内細菌や腸内環境が深く関係しているからです。たとえば医学博士の藤田紘一郎氏は、近年の日本人のアレルギー症状の増加と腸の関係性について多くの著作のなかで明快に述べています。
私は、日本人の近年のアレルギー性疾患増加の原因は、腸内細菌の減少にもあると考えています。
日本人の腸内細菌の数は、戦前の半分以下に減少しています。腸内フローラのバランスも崩れてきていて、日本人の腸年齢はどんどん老化する一方です。
このことは、私たちの糞便を調査することでよくわかります。糞便の約半分は、生きた腸内細菌と死んだ腸内細菌が占めているからです。(藤田紘一郎『腸内細菌が家出する日』 p98~99)
また「免疫力」もアレルギー症状と密接な関係があります。
ちなみに一般的にいわれる「免疫力」は「自然免疫」と「獲得免疫」に分けられます。自然免疫は、ヒトや動物に最初から備わっている免疫システムのことで、主にNK細胞やアメーバ状のマクロファージといった免疫細胞が活躍します。
一方、「獲得免疫」のほうは、「抗原(アレルゲン)」に対し、抵抗するための「抗体」を獲得する仕組みであり、主に免疫細胞であるリンパ球の、B細胞やT細胞が中心になります。
スギ花粉などが原因で発症する花粉症や食物アレルギーといった問題は、後者の「獲得免疫」の仕組みと深く関係しています。
たとえばおたふく風邪のウイルスが侵入してきた場合、それを食べたマクロファージがウイルスの情報をTリンパ球に伝えます。するとその情報がT細胞からB細胞に伝えられ、それに従ってB細胞は抗体を作り、二度と同じ病気にかからないようにするのです。
では、花粉症と私たちの免疫システムにはどのような関係があるのでしょうか?
このあたりのことについて、医学博士の藤田紘一郎氏は『アレルギーの9割は腸で治る!』のなかで分かりやすく説明しています。
スギ花粉のような、分子量2万近くの物質が体内に侵入すると、(略)Bリンパ球がIgE抗体を産生します。
このIgE抗体は次に花粉症が入ってきたときに攻撃を仕掛けるのが本来の役割なのですが、やっかいなのは肥満細胞の表面にくっつくことです。
肥満細胞というのは、鼻や口、皮下、気管支などいろんなところの粘膜に存在しています。なぜ「肥満」と名づけられたかと言うと、ヒスタミンやセロトニン、ロイコトリエンなどの化学伝達物質が細胞内にパンパンに詰まっていて、顕微鏡で見ると丸々と太っているからです。(藤田紘一郎『アレルギーの9割は腸で治る! クスリに頼らない免疫力のつくり方』p131~133)
この肥満細胞には、IgE抗体がくっつくカギ穴があります。そのカギ穴にスギ花粉由来のIgE抗体が付着して、表面を覆います。その状態では何も起きませんが、花粉が飛んできて2つのIgE抗体に花粉がつくと、肥満細胞が破れてしまいます。
その結果、肥満細胞はヒスタミンやセロトニン、ロイコトリエンなどを撒き散らし、その刺激を受けた粘膜が炎症を起こす、というわけです。
スギ花粉を鼻から吸い込めばくしゃみや鼻水が出たり鼻づまりになるし、目に入れば目がかゆくなるのです。(藤田紘一郎『アレルギーの9割は腸で治る! クスリに頼らない免疫力のつくり方』p133)
またアレルギー疾患に関わるのは免疫細胞のうちT細胞であり、そのうちの「Tレグ(制御性T細胞)」と呼ばれる細胞は免疫の調整役であるとされています。
昔の人の白血球にはTレグが多いことが知られています。そして、腸内細菌をはじめ、私たちの周辺に存在する細菌やウイルスがTレグを鍛えていることがわかってきました。それらの微生物を「ばっちいもの」として排除した現代人のTレグは徐々に弱まり、今のようなアレルギー性疾患の増大をもたらしたものだと考えられています。藤田紘一郎『腸内細菌が家出する日』 p120)
(略)アレルギーに関係するT細胞は、なだめ役である「Tレグ」と呼ばれる細胞なのです。このTレグがアレルギーや自己免疫疾患などと深く関わっていることが、最近の研究で明らかにされてきました。(藤田紘一郎『腸内細菌が家出する日』 p121)
そして、花粉症をはじめとしたアレルギー症状の抑制と改善には、「短鎖脂肪酸」が重要なカギを握っていると言います。
理化学研究所の大野博司博士は、未熟なT細胞をTレグへと誘導する役割を果たしているのは、肥満や糖尿病を防ぐのに重要な役割を演じている「短鎖脂肪酸」だということを突き止めました。(藤田紘一郎『腸内細菌が家出する日』 p121)
2014年、スイスにあるローザンヌ大学の研究チームは、マウスに食物繊維が多い食事を与えると、喘息などのアレルギー性疾患が起こりにくくなることを明らかにしています。これは、食物繊維が多い食事をすることで腸内細菌が出す短鎖脂肪酸が増え、アレルギーが予防できる可能性があるということです。(藤田紘一郎『腸内細菌が家出する日』 p122)
このように藤田氏は述べていますが、腸内環境を良くすることによって花粉症を改善していくには、野菜や果物、海藻類などを中心にして、食物繊維を日頃の食事から多く摂ることが大切になってくると思われます。
またアレルギー症状の抑制の鍵を握る「短鎖脂肪酸」が体内でうまく作られるようにするには、腸内フローラを改善し、腸内細菌のバランスを整えることが重要になってきます。
そのほか、腸内環境の改善による花粉症の対策としては、乳酸菌の一種である「フェカリス菌」がアレルギー症状の抑制に効果を発揮するという研究報告もあります。