パイエル板とM細胞は腸管免疫において大切な役割を果たしています。
パイエル板は腸管を流れていくものを監視し、パイエル板の表面のM細胞は腸管の中にセンサーを出していて、抗原となる病原体をキャッチします。
より詳しく述べると、小腸の内側表面には、絨毛がびっしりと生えており、絨毛の最外層には一層の粘膜上皮細胞が並んでいます。その粘膜上皮細胞の並びのなかに、特殊な細胞がときおり見られます。
この細胞が「M細胞」で、病原体がいないか調べるだけでなく、腸管を流れていくものの全体的な状況を確認しています。
「M細胞」は下部にポケットをもっており、M細胞がある辺りは絨毛がとぎれて台地状になっています。
その台地の下には「パイエル板」というリンパ組織が存在しています。このパイエル板は免疫系の司令室にあたる器官です。
これらの「パイエル板」と「M細胞」が存在している腸管免疫の重要性について、審良静男/黒崎知博氏らは、以下のように述べています。
パイエル板には、樹状細胞、T細胞、B細胞などの免疫細胞がいて、樹状細胞などはM細胞のポケット部にも入りこんでいる。
(中略)
一方、絨毛の最外層にならぶ粘膜上皮細胞の下の粘膜固有層には、免疫応答の結果としてプラズマ細胞(抗体産生細胞)がならび、粘膜上皮細胞をとおして腸管内にむけて抗体を放出している。粘膜固有層には、T細胞、樹状細胞、マクロファージ、マスト細胞なども分布する。
腸管の粘膜上皮層と粘膜固有層に存在する免疫細胞の数は、他のどの場所とくらべても圧倒的に多い。
(審良静男/黒崎知博『新しい免疫入門』 p160~161)
さらに審良静男/黒崎知博氏らは、
「M細胞は、特殊な受容体を腸管内に出していて、食物といっしょに流れてきた細菌やウイルスをくっつけてポケットに取りこむ。たとえば大腸菌やサルモネラ菌に結合するGP2という受容体の存在が確認されている。ポケットでは樹状細胞が待ちかまえていて、取りこまれた細菌やウイルスに受けわたされ、免疫応答がはじまる」
と述べています。
また両氏によれば、樹状細胞が抗原となる細菌やウイルスを受け渡されると、パイエル板のナイーブヘルパーT細胞に抗原提示を行うといいます。
そこから、活性化ヘルパーT細胞が抗原特異的に誕生し、クラススイッチ、親和性成熟を経て、プラズマ細胞(抗体産生細胞)の前駆細胞への分化を果たすとしています。
そしてプラズマ細胞の前駆細胞は、リンパ管を経由して血流に乗り、再び腸に戻って来ると、免疫グロブリンA(IgA)を腸内に向けて放出するといいます。
なぜプラズマ細胞の前駆細胞が全身をわざわざめぐる必要があるのかという点については、
パイエル板を出たプラズマ細胞の前駆細胞は、腸管のほかに鼻やのど、肺の気管支、生殖器など、からだじゅうの粘膜にたどりついてプラズマ細胞となる。腸管でキャッチした病原体はからだじゅうの粘膜から侵入する可能性があるので、まんべんなく配置して水際で阻止するということだろう。腸管免疫が粘膜免疫ともよばれているゆえんである。
(審良静男/黒崎知博『新しい免疫入門』 p163)
と述べています。
このように、腸管免疫におけるM細胞とパイエル板の役割は非常に重要であることは間違いないように思われます。
参考文献
上野川修一 『からだの中の外界 腸のふしぎ』 講談社
上野川修一 『からだと免疫のしくみ』 日本実業出版社
審良静男/黒崎知博 『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』 講談社