腸管免疫の働きを考える上で重要なのは「経口免疫寛容」です。
この「経口免疫寛容」とは、食物中に含まれている大量の異種タンパク質を含む抗原物質に対して、免疫応答を起こさない現象のことです。
つまり、食品に含まれている大量の抗原によって、過剰な免疫反応を起こさないようにする仕組みのことなのです。
もし、わたしたちの人体にこの「経口免疫寛容」の仕組みが備わっていなければ、食品中のアレルゲンに対して、いちいちアレルギー反応を起こしてしまうようになるのです。
この腸管免疫における「経口免疫寛容」について、審良静男/黒崎知博氏らは『新しい免疫入門』のなかで以下のように述べています。
食物にふくまれるタンパク質は、わたしたちにとっては異物である。すなわち抗原性がある。しかし、タンパク質は、口から胃、胃から腸と進むうちに分解され、腸で吸収されるときにはアミノ酸にまで分解される。アミノ酸にはもはや抗原性はない。
ところが、タンパク質のなかには、アミノ酸にまで分解されずにタンパク質分子のまま腸で吸収されてしまうものがある。その数は、合計すると無視できない数になり、まともに免疫が応答すれば急激なショック症状をおこしてしまう。
このような危険を回避するために、わたしたちのからだには経口免疫寛容というしくみがそなわっている。そして、ふしぎなことに、経口免疫寛容が成立しているタンパク質に対しては、口からの摂取でなくても免疫応答がおきない。うるし職人が手のかぶれを避けるために、少量のうるしを食べるという話は有名である。
経口免疫寛容のしくみはよくわかっていない。
(審良静男/黒崎知博『新しい免疫入門』 p166)
審良静男/黒崎知博氏らによれば、経口免疫寛容の仕組みの全容についてはまだ解き明かされていないそうですが、免疫応答を抑制的にコントロールする働きがある「制御性T細胞(Tレグ)」と呼ばれるものや腸内細菌が何らかの形で関わっていることは確かだとしています。
また「制御性T細胞」は腸管免疫のブレーキ役を果たし、アレルギー症状の抑制に関わっているとして近年注目を集めています。
参考文献
上野川修一 『からだの中の外界 腸のふしぎ』 講談社
上野川修一 『からだと免疫のしくみ』 日本実業出版社
審良静男/黒崎知博 『新しい免疫入門 自然免疫から自然炎症まで』 講談社