近年、自閉症と腸内フローラ・腸内細菌および腸内環境の関係性がしばしば指摘されるようになりました。
自閉症は人との意思疎通がうまく出来ない発達障害だとされており、先天性の脳機能障害だとも言われていますが、その原因については未だ解明されていません。
しかし、腸内細菌の集まりである腸内フローラは脳と密接な関わりがあるため、何らかのかたちで自閉症の症状に影響を与えているとも言われています。
例えば、辨野義己氏は『腸を整えれば病気にならない』のなかで、以下のように述べています。
自閉症の子供を持つ親の間では、もともとバンコマイシンという抗生物質を投与すると自閉症の症状が大きく改善されるということが経験的に語られていましたが、きちんと研究されてきませんでした。これは抗生物質が腸内フローラを変化させて起こると考えられます。そこで、ここ数年、腸内フローラと自閉症との関連が注目されるようになり、さまざまな研究が行なわれてきています。
2013年にはアメリカのカリフォルニア工科大学のシャオ博士が、マウスを使った実験について報告しています。自閉症のような症状を示すマウスを作り出すと、腸管バリアがうまく働いていないことがわかりました。さらに、自閉症のような症状を示すマウスの血液を調べると、4EPSという物質が多く含まれていました。4EPSは、自閉症患者に多く見られることがわかっています。そして、健康なマウスに4EPSを注射すると、不安行動が増加しました。
このマウスに、バクテロイデス・フラジリス菌という腸内細菌を与えたところ、5週間後には腸管バリアが修復され、血中の4EPSが減少しました。そして、他のマウスと積極的にコミュニケーションをとるなど、自閉症のような症状は改善されました。この研究からは、腸内フローラの不調が自閉症の症状に影響していると考えられます。
(辨野義己 『腸を整えれば病気にならない』 p110~111)
さらに自閉症と腸内細菌の関係性について、デイビッド・パールマター氏は『「腸の力」であなたは変わる』のなかで以下のように述べています。
自閉症の子どもたちは腸内細菌の構成に特定のパターンがあるが、そのパターンは自閉症でない子どもには存在しないのだ。
さらに自閉症の人はほぼ一様に、胃腸に問題を抱えているという事実もある。
その上、自閉症患者に見られるある特定の腸内細菌は、免疫系と脳に悪影響をおよぼす物質をつくり、免疫系を乱して炎症を起こす。
脳が急速に発達中である若い人の場合、炎症の発生に加えてこうした細菌との接触は、脳障害の一因になる可能性が高い。
(デイビッド・パールマター 『「腸の力」であなたは変わる』 p180)
最先端の研究では、自閉症の人の腸内細菌は、自閉症でない人のそれとは著しく違っていることがわかっている。
とくに、自閉症の人はクロストリジウム属菌を多く持つ傾向があり、他の腸内細菌のバランス効果を乱し、ビフィズス菌などの有益な微生物を減少させてしまう。
クロストリジウム属菌が多いというのが、自閉症の子どもの多くが、炭水化物やとくに精製糖(これらの細菌のエサになる)を欲しがる理由であり、さらにクロストリジウム属菌を増殖させる悪循環をつくってしまう。
(デイビッド・パールマター 『「腸の力」であなたは変わる』 p192~193)
腸内細菌と自閉症の関係を理解するには、さらに長い年月をかけた調査が必要だ。
(略)
覚えておいていただきたいのは、自分が正しい選択をすれば、自分の将来の健康や、子どもたちの未来をおも、変えられるということである。
食べ物やストレス、運動、睡眠、そして腸内の状態が、どの遺伝子を活動させ、どの遺伝子を抑えるか――こうしたことは、ある程度、自分のコントロールが利く。
まだ、自閉症などの脳疾患を根絶することはできないかもしれないが、発症を抑えるために力を尽くすことはできる。
(デイビッド・パールマター 『「腸の力」であなたは変わる』 p208~209)
自閉症の原因に関しては分かっていないことの方が多いかもしれませんが、腸内細菌の集まりである腸内フローラを改善し、腸内環境を良くしていくことは、自閉症の症状の緩和と無関係ではないように思われます。
参考文献
『腸を整えれば病気にならない 腸内フローラで健康寿命延びる』 辨野義己 廣済堂出版 2016年
『「腸の力」であなたは変わる』 デイビッド・パールマター クリスティン・ロバーグ 著 白澤卓二 訳 三笠書房 2016年