ここでは腸内細菌と腸管のバリア機能の関係について述べています。
現代社会においては、子どもの食物アレルギーや大人のアトピー性皮膚炎、花粉症といったアレルギー症状に悩まされる方が増えてきています。
その背景には一体どのような事態があるのでしょうか?
例えば、医学博士の藤田紘一郎氏はそのようなアレルギーの増加は、様々な虫や菌を「キタナイ」ものとして排除する「キレイ社会」で生活していることと関係があると、『アレルギーの9割は腸で治る! クスリに頼らない免疫力のつくり方』などの著作で述べています。
また、藤田紘一郎氏は、
私は、日本人の近年のアレルギー性疾患増加の原因は、腸内細菌の減少にもあると考えています。
日本人の腸内細菌の数は、戦前の半分以下に減少しています。腸内フローラのバランスも崩れてきていて、日本人の腸年齢はどんどん老化する一方です。
このことは、私たちの糞便を調査することでよくわかります。糞便の約半分は、生きた腸内細菌と死んだ腸内細菌が占めているからです。
(藤田紘一郎『腸内細菌が家出する日』 p98~99)
としています。
そして細菌やウイルス、未分化のタンパク質などの異物が容易に体内に侵入してアレルギー症状などを起こさないように、腸管には3つのバリア機能が備わっているといいます。
(藤田紘一郎『腸内細菌が家出する日』 p163)
それでは、腸内細菌とアレルギーはどのように関わって来るのでしょうか?
藤田紘一郎氏は「腸内細菌は「もう一人の私」なのです」とし、「それらの細菌の多くはヒトの腸にしか棲むことができないため、私たちが病気にならないよう、長く生きられるようにいろいろ工夫しています」と述べています。また、
病原体の多くは腸から体内に入り込みます。腸にたくさんの細菌が棲むのは、病原体の侵入を防ぐためでもあるのです。しかも腸内細菌は腸にいる免疫細胞を活性化する役割を担っています。このような腸粘膜と腸内細菌の協同作業で、人が持つ免疫力の約70%がつくられているというわけです。
(藤田紘一郎『腸内細菌が家出する日』 p119)
としています。
さらにそれだけではなく、お花畑のような腸内細菌の集まりである腸内フローラは、腸管において、病原体の侵入を防ぐバリア機能を働かせていると藤田氏は述べています。
腸内細菌の多様性である腸内フローラは、食物アレルギーの原因にもなる未消化の高分子タンパク質や、細菌、ウイルスなどが体内に侵入するのを防御壁の一つとして守ってくれています。
そのため、食物アレルギーや花粉症、アトピー性皮膚炎といったアレルギー症状を緩和していくためには、腸内細菌の数を増やし、その多様性を取り戻すように、腸内フローラの改善を行うことが、有効な手段になり得ると思われます。
また『腸内細菌が家出する日』のなかで、アレルギー症状を緩和するのに効果的だとされる「短鎖脂肪酸」は、腸内細菌のチームワークによって生み出されると藤田紘一郎氏は述べていますが、このことは腸内細菌の多様性を取り戻すことと、深い関係があるように感じます。
しかし問題なのは、藤田氏が指摘しているように、私たちの腸に共生している腸内細菌の数が次第に減ってきていることです。
腸粘膜バリア機能の破綻は免疫系の制御異常を引き起こして、炎症性腸疾患、食物アレルギー、経粘膜感染症など、さまざまな疾患の発症の原因となります。近年、患者数が増加し続けている潰瘍性大腸炎やクロ―ン病などの炎症性腸疾患も、腸管のバリア機能が原因の一つとして考えられています。
また最近では、「リーキーガット症候群(腸管壁浸漏症候群)」も問題になることが多くなってきました。
(藤田紘一郎『腸内細菌が家出する日』p163~164)
このように、腸内細菌が減ってしまうことで、もし腸管のバリア機能が弱まってしまうと、難病ともされている潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患やリーキーガット症候群などを発症してしまうことが考えられるのです。
ところで、『腸内細菌が家出する日』には、
ヒトと寄生虫や微生物とのやりとりを研究していると徐々に、「免疫」とは異物を「排除」するための機構ではなく、他の微生物との「共生」をいかにスムーズにするか、そのための機構であると考えるようになってきました。つまり私にとって免疫とは、生体の防御というよりも「共生のための手段」だと思うようになってきたのです。
(藤田紘一郎『腸内細菌が家出する日』p14)
という印象的な一節があります。
このくだりは免疫とは何かということを考えさせられますが、もしかしたら、アレルギー症状が起こりやすくなってきているのは、藤田紘一郎氏のいう「共生のための手段」が徐々に失われていっていることと、何かしら関係があるのかもしれません。