腸内フローラを改善していくことは肥満予防につながることが近年、明らかになってきました。
東京農工大学の木村郁夫氏の研究によれば、食物繊維の存在は腸内環境を改善するのに有効なだけではなく、腸内細菌が食物繊維を分解することで出来る短鎖脂肪酸が、エネルギーとして使われるだけでなく、わたしたち宿主側の細胞にある受容体にシグナルとして受け取られて肥満を抑えているということが判明したそうです。
また木村郁夫氏によれば、エネルギー消費を促すGPR41や脂肪蓄積を抑えるGPR43といった短鎖脂肪酸受容体が、腸内細菌が食物繊維を分解することで産生される短鎖脂肪酸によって活性化するのだと言います(参考 木村郁夫「腸内細菌と宿主の肥満をつなぐ受容体」 生命誌ジャーナル)。
つまり、酢酸、酪酸、プロピオン酸の短鎖脂肪酸には肥満細胞に余計な脂肪が蓄積されていくのを防ぐ働きがあるということなのです。
そしてこの短鎖脂肪酸は腸内細菌が食物繊維を分解することで出来るので、腸内フローラの改善によって効果的に肥満を予防するには、
この二つが非常に重要になってきます。
短鎖脂肪酸を生み出す腸内細菌とは主に、善玉菌に分類されるビフィズス菌と日和見菌に分類されるバクテロイデスだと言われています。
短鎖脂肪酸は外から摂取しても、胃腸で分解・吸収されると共に効果が失われてしまいますが、腸内細菌が恒常的に短鎖脂肪酸を生じさせるようにすれば、そのぶん、余計な脂肪の蓄積が抑えられるため、肥満症を予防することが可能だというわけなのです。
そのため、腸内細菌のエサになりやすいといわれる水溶性の食物繊維が豊富に含まれた食材を継続して摂り、育てるようにして腸内のビフィズス菌やバクテロイデスの数を増やしていくことが肥満予防につながるとされています。
またそのことはダイエットにもつながっていきます。
実際、肥満症の人はビフィズス菌(ビフィドバクテリウム)やバクテロイデスなどの菌が少なくなっていると言われています。
それに加え、肥満状態にある場合、腸内フローラの構成がバクテロイデス門よりもファーミキューテス門優勢であるとされています。
また米国のエモリー大学の研究によると、からだを刺激する際のスイッチの役割を果たす「TLR5(トル様受容体5)」を失ったマウスは肥満になることが分かったそうです。そのため、特定の腸内細菌が肥満を抑制するための信号を送っているのではないかと推測しているようです。
さらに、東京大学名誉教授の上野川修一氏は、「腸内細菌のうちのあるものは腸内分泌細胞の一つであるL細胞を刺激してグルカゴン様ペプチド‐1を放出し、インスリンの放出を調節している。その結果、糖を抑え、食欲を抑制し、肥満を防ぐ役割を果たしているとみられている」と述べています。
どの腸内細菌がそのような働きをしているのかはまだ分からないそうですが、腸内細菌が肥満の抑制のために働いている可能性は高いようです。
そのため肥満を抑制するには腸内細菌のバランスを整えて腸内環境を改善していくことが重要なのです。
参考文献
上野川修一 『からだの中の外界 腸のふしぎ』 講談社
辨野義己 『腸を整えれば病気にならない 腸内フローラで健康寿命が延びる』 廣済堂出版